

[ 男は肩で息をつきながら、
地面に突き立てた剣を支えに、かろうじて崩れ落ちるのを堪えている
ふいに身を折って咳き込む。
剣タコのある厚い手に、薄明にも鮮やかな赤が散って、
すぐに雨に流れて消えた。
じわじわと、衣服に赤が滲む。背から脇腹へ抜ける、裏切りの傷。 ]
[ ……妙だった。
男の周囲に足跡はない。
ぬかるむ地面に足跡を着けずに、門まで行くことなど不可能なのに。
異常だった。
男の衣服を染め行く雨の染み。今の今まで濡れていなかった証。
……三日三晩続くこの雨の中、
何もかもがみすぼらしく濡れ、うなだれているというのに。
まるで、
彼の傍にそびえたつ、その門から、
今まさに出てきたとでもいうように。
……いつの間にか、そこに居る。 ]