[木々が鬱蒼と生い茂る山道を、一人の人影がゆっくりと登っていく。
手には使い古した鞄。人一人くらいは優に収まってしまいそうな、使い古した茶色の四角い革鞄を、軽々と片手に下げて]
右手さん、右手さん、もうちょっと頑張ってねえ。
[どこか他人事のように笑い、また一歩。
目指す村にはあとどれくらいで着くだろう。急ぐことはないから、景色でも眺めながらのんびり行こう。
ややあって、視界が開けた。目的地まではまだのようだが、少し休もうか。そろそろ日も高く、歩き続けるのも疲れてくる――だろう、頃合いだ。
鞄を地面に置き、その上にぺたりと腰を下ろす。その中から、抗議するようにりん、と鳴った甲高い音は、鞄の表面を右手で撫でれば、ひとつふたつ不規則な音色を刻み、沈黙した]
あ、カラスー。
[日は高く、遠くの山並みと麓の街が見える。一羽の黒い鳥が、その上にがらんと広がる空を、悠々と羽ばたいていた。
君の家は、あっち? それともこっちに来るの? 夢があるのー?
[ひらひらと手を振る。そうして、手足の疲れが癒えるまでの間、そこで休んでいただろう**]