"さて、最寄りの軍港シコンだが──
領主が投降すると言ってきている。"
[傍目には、潮風に栗色の髪を靡かせているばかりと見えるだろうアレクトールは、この時、腹心であるルートヴィヒ──商家の息子であるが、今は「扶翼」という特別役職を与えて公務から私事まで関わらせている──と”語り合って”いた。
といっても、ルートヴィヒの姿はここにない。
彼が指揮するのは第二艦隊だ。シルエットは確認できても声の届く距離ではなかった。
それでも、アレクトールとルートヴィヒは互いの意志を把握することができる。
ルー・ガルーでは深い縁の証拠とされる共振現象だ。
齢が近いとはいえ、血がつながっているわけでもないルートヴィヒとだけ、この絆が結ばれたのも不思議なことだが、心を撫でられるようなこの感覚、アレクトールは嫌いではない。
もっと奥まで来てみろと挑発するような響きさえにじませた"声"を放つのもいつものこと。]