― 記憶 ―
[ 男の名を知る者は多い。大概は関わらぬ方がいい危険な相手としての認識で。
そうであることを、男自身も知っていたし、ある意味望んでもいた。
だが稀に、危険を危険と思わぬ輩が居る。そんな1人が、ディークというハンターだった ]
負けず嫌いというやつか。
[ 最初に獲物の取り合いになった時、警告の意味もあって、男は、滅多に出さぬ全力でその獲物を奪い取った。
そういった時の常で、虎としての本能が半ば以上表に出ていたから、普段は獲物と見做さない狼も、下手をすれば喰われると、感じはした筈だ ]
普通は、あれで懲りるもんだがな。
[ しかし、二度目に獲物が被った時、ディークは怯む気配も見せずに挑んで来た。
手加減したわけではなかったが、結果的に獲物を譲る羽目になったのは、少なからず、その負けず嫌いぶりを「面白い」と感じてしまったが故だとは、思っている。
獲物の取り合い程度で、決着をつける相手ではない、と、どこかで、そう思ってしまったのだ ]