― 墓場 ―
[…は、いつも通り墓場の掃除をしながら、昨晩のことを思い出していた。幼馴染との再会、恋人との楽しい食事、大勢の人でにぎわう宿。]
(わたしは昨日のような日を、以前にも体験したことがある。
全員ではなかったけれど、多くの村人が宿へ集まっていた。
わたしたちは、本能で自身に何か起こるかもしれない、と感じ取っているのだろうか。
奴らが動き出すのも近いのだろうね。……ユーリエが心配だ。あとで会えるといいのだけれど)
[そんなことを考えていると、ローゼンハイムが訪ねてきた。彼の手元には、深紅の薔薇のつぼみが一つ。]
やあ、ローゼンハイム。
その手に持っているものは、薔薇だね。
うん、つぼみでも分かるほど、艶があって綺麗だね。
君が手塩にかけて育てているだけのことはあるな。
今夜?へえ、そんなことまでわかるのか。
朝陽を浴びて、元気に開花するのではないんだね。
[気分を良くしたローゼンハイムが、「よければ明日、見に来てほしい。美しい姿を村の人に見てもらいたいんだ」と笑みを浮かべた。]
いいのかい?
誘ってもらえて嬉しいな。
明日、楽しみにしているね。
[一瞬、ユーリエのことが頭をよぎる。しかし、彼は彼で見せたい人がいるのだろう。]
(もしかしたら、すでに誘ってくれているかもしれないしね。)
[…はローゼンハイムに手を振った。]