― 回想 ―
[かつて、孤児として他からは遠巻きにされていた時代。或いは、それと知る者からは"臆病者の子"として蔑まれていた時代。
フェリクスがそれを知るにせよ、知らぬにせよ、他と変わらぬただの子供として扱った数少ない人間の一人がフェリクスだった。]
[その彼が訓練場に顔を見せなくなり、怠惰な当主だと噂されはじめた頃、己は元首に至る道筋を模索し、歩み始めていた。
有力な家の者たちへ密かに或いは公に近づいて親交を深めていたが、彼には働きかけをしなかった。彼を政争に巻き込むことを恐れたからだ。]
[ザール家のテオドールが危険な野心で満ちていることは早くから知っていた。この頃には既に若者たちのリーダーのようなことをしていた己が、同じく若者に人気があり脈々と続く家系の当主である彼に近づけば、かの野心家がどれほど危険視するか、容易に予測は付いた。]
[それに、彼との関係を、政争などという戦場とは別種の血腥さで汚したくなかったのだ。いつか彼から勝利をもぎ取る。その思いは常に目標として掲げられ、厳しい鍛錬を続ける原動力のひとつになっていた。*]