[彼女はほとんど覚えていないのだろうと思った。
覚えていれば、こうやってカスパルに訊ねてくることはないだろうと思っていたからだ。
しかしゆっくりと近づいてくるドロシーから問われる言葉は>>1、彼女が「覚えていない」のはカスパルの誤解であった事を突きつけてくる。
変わらぬ色の瞳で見つめられて、今までは霞かかったようだった記憶が、走馬灯のように鮮明に目の前に蘇った。]
……”俺”は違うイキモノだ。
だが心は――どうだろう、な。
[近づいてくる彼女から逃げず、資料を置いて机を回り、こちらからも一歩だけ距離を縮める。
あの時、一人でいた彼女に最初に目を留め声をかけたのは、ただの偶然だ。その後喰い殺そうと思ったわけではない――ない、はずだ。]