「大方野党にでも襲われたのだろう」
俺を診てくれた村医者はそう言っていた。
服は割け、体の至る所に痣と切り傷を負って倒れていたのだからそうなのかもしれない。
だが野党に襲われたのだとしたら、俺が身に着けていたペンダントが盗られなかったのは不自然だ。
金目の物を奪うのが目的ならこのペンダントを盗らない理由が無い。
何か別の理由で襲われたのではないか―――そんな疑念が湧いたが結局のところ俺自身が記憶を失っている以上、その問いに答えられるやつはいるはずもなかった。
記憶を失った俺の手掛かりはこのペンダントとボロボロの手帳だ。
手帳には安らぎの村とこの早春の村について記されていた。
何の為にこれらの村について手帳に記したのか今の俺には知る由もないが、手帳に記すということはそれなりに大切なことだったのだろう。
もしかしたら俺を知る人物や記憶を取り戻す手掛かりがあるかもしれない。
そう考えて遥々この村まで足を運んだというわけだ …)