人は望むと望むまいと道を選び、道の先を目指す。
生まれた時から道を定められているものは幸いだろうか。
或いは不幸だと嘆くのだろうか。
ここに、一冊の手記がある。動けぬ我が身の記、とある。
手記にはつれづれの出来事の他、負担をかけた弟を気遣う文章が書き連ねられている。その筆致は穏やかであり、自身の不幸を嘆く言葉や誰かをうらやむような文言は無い。
ただし、最後のページのみ書体が荒れており、運命を罵倒する言葉が並んでいる。
裏表紙には小さく「望むままに」と記されているが、筆者が何を思ってこれを書き記したのか、我々は想像する事しかできない。
─── Eugen Jessel 『道――この数奇にして動かしがたいもの』