− 15年前 / オルヴァルからの帰途 −
[10歳に満たない皇太孫にとって、旗艦は巨大な迷路であった。
危ないからと立ち入りを禁止された場所がいくつもあって冒険心をくすぐられた。
そんなある日、幼いアレクトールは不気味な声を聞いて、これまで入ったことのないエリアに侵入したのだった。>>1:691
それは歌のようでもあり、呪文のようでもあり、小鳥の囀りのようでもあり、獣の呻きのようでもあった。
格子の隙間から覗けば、暗い壁際に小さな影が見えた。
幽鬼のような肌の色をした子供。まるで生気が感じられなかった。
ただ、引き延ばされた声だけが歪んだ唇から零れていた。]