[それでも、男は慰め方を知らなかった。
他者を自らの快楽以外に使ったことが無く。
悦びと悲しみの境界が曖昧だ。
作り物の表情筋も指先も、動かし損ねたのはひと時だけ。
彼の艶帯びる声を聞いて、僅か見せた安堵は無意識の雄弁。
彼が悦楽で塗り潰されている間は、あの悲哀が覗かない。
心得たのは本体たる己だけではなく、彼に潜む末端も。
質量が身を捩るように彼の内壁を摩擦し、旋回に掻き乱していく。
精通を辛うじて済ませているだけの肉の器へ躾けるは、禁忌の刺激。
彼の腹の底で熱烈な口付けが交わされ。
彼を苛む熱は外からだけでなく中からも拡散しゆく。]