[自らを是正すればするほどに、歪は肥大する。 迷える子らよ、と人々を導いていた彼が、今は心の置き所すら悩ましく。混沌を愛する視界には、その姿もまた美しく映り―――、微か息を飲んだ。 彼の眸を陰らすは、悲嘆のみであろうか。 迷えるは、邪悪に追従するしか出来ぬ現状にのみであろうか。 こんな時くらい、常の勇ましい声を張れば良いのに。 彼の紡いだ小声は、自棄にか弱く、可憐に響いて聞こえた。 清廉な歌声とも、淫靡な嬌声とも違う。 ひと時、笑みを忘れてしまうような、不思議な声だった。]