クレメンス、あなたの香りがする。
[ 心臓に音がしなくとも曝け出した手で
触れる左胸を撫でながら ]
あなたの生きている音が、する。
[ 息を吐いて、吸い込んだ。 ]
それってとても、尊いことだ。
…………消えないで、よかった。
……ありがとう。
あの時あなたに会えて、
[ ちいさく綻ぶのは月下の元。
続きの言葉は全て唇で隠してしまった。
草木を濡らす一筋は閉じた瞼より。
広い背に回した両腕。
枷のなくなった体はそのまま、
跳ねて彼の胸の中で眠るように縋り付いた。 ]