歌が始まれば、俺は鼻をつまんでやる。
…まったく、声は悪くないってのに。
何故あれだけ歌えるのか、才能だな。
[また楽しげに肩を揺らす顔には、仕方ないなと書いてある。
実のところ、ゲオルグはタクマの”悪癖”が嫌いではなかった。
いや正確には聞かず済むならその方がありがたい。
ありがたいのだが、鼻歌を歌いだすタクマは本当に楽しげで、その歌を聞けば皆が賑やかに騒ぎ始めるものだから、どうもその祭りめいた陽気な雰囲気も相俟って嫌う気にはなれなかったのだ。
…もっともそうした者ばかりではないからと、やがてゲオルグの率いる艦において戦闘前の「景気づけ」は行われなくなったのだけど。]