[未だ、直接出会う前。
声だけで繋がっていた頃。
一月ほど、話しかけられても全く返事をしなかった――できなかった時期があった。
それは、実母が病に伏してから、永眠するまでの間。
当時10歳、この頃は魔法の才の発現は片鱗程度にとどまっていて、未だ、下町で慎ましく暮らしていた。
そんな状況での母の病は混乱を引き起こして。
当時は伯母だった養母や、隣近所からの援助もあったが、先の見えない母の看病は少年の身には堪えていて。
声が聞けて嬉しいのに、どう返していいのかわからなくて。
案ずる声に心配させている、と自覚したらそれもそれで苦しくなって。
結果として、実母が眠りにつくまでの間、上手く声を返せずにいた]