[子供の頃から、泣くのは苦手だった。
旅暮らしの中で、簡単に泣くな、と戒められていたから。
そうでなければ、幼い子供が宛のない旅に耐えられぬだろうから、という父の教えの結果がそれ。
勿論、年上だからとか、後は生来の気質もあるのだが]
……ったく。
お前にゃ、敵わねぇ、なあ。
[間を開けて、零したのは、ぼやくような響きの声]
わかってる。
……どーにもなんなくなる前には、頼らせてもらうから。
[いつかみたいに、と付け加える時には、苦笑の響きが声に乗る。
そのいつか──父が病に倒れた時も、すぐには本音を晒さなかったから。
そうは折れる心算もないのは、多分、伝わるだろうけれど。*]