[己の名を、唯の一度も恥じたことが無かった。
我が家の名は、心を意味し、魔を屠らんと打ち立てた始まり。
家に伝わる古い古い昔話。
天使と恋に落ちた御伽噺を祖とする。
末裔たる己は、彼女の心臓目掛けて剣を突き出した癖、
器用にその脇を通し、決して、彼女を傷つけなかった。
嘘じゃない、と笑う男が落下しながら剣を離す。
どうせ、この高さから落ちて、無事では居られない。
――――彼女も、己も。
それなら、もう剣を手にする必要が無い。
この腕で、―――ずっと、求めてきたように、
彼女の身体を壊れるほど強く抱きしめた。]