― 酒場の吟遊詩人 ―
[騎士団に属そうと半島を北上し、ペンホールズに着いた魔女。
日はとうに暮れており、眩しいオレンジ色が建物の向こうに消えていったのは数刻前。
別に急ぎの用事ではないのだし、此の時間からシンクレア家を訪れるのはさすがに非常識というものだろう――一般常識は持ち合わせていた魔女は、その日の夕食と宿を得ようと、手近な酒場に入った。
賑やかな喧騒に混じって響く、ハープの音色。
案内された席につき、注文した葡萄酒に口をつけながら視線を流した先は、酒場の一角に設けられた即席の舞台だった。
そこでは器量のいい容姿を軽装に包み、慣れた仕草で客のリクエストに応え、楽曲を奏でる金髪の吟遊詩人がいた。
人気者なのだろう、周りには人垣が出来ており、時には即興で追奏する客や、リズムに合わせて踵を鳴らす踊り子モドキまでいる。
野菜のシチューをつつきながら、魔女は片肘をついてその様子を眺める]