―鏡の間―
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[請うておきながら、手を離されれば僅か名残惜しそうに。自由になった指先は、彼が口付けを落とした目元と唇を滑らかに辿り、最後にぺろりと舐めとられる。
喉元へ当てられる手を、愛しげに両手で抱きしめて。そのまま腕を辿るように右手を伸ばし、父の頬を撫でた]
はい。
僕の全ては、貴方だけの為に。
[するりと腕を降ろし、昏い空色を細めて彼の指先を受け入れる。痛みを飲み込んだ口許は、微かに吐息を吐きだした。露になった血の気の薄い白い肌に、滴る赤。
次いで、父の身体にも傷が刻まれる。
痕が残ればお揃いなのに。いつも思う。傷も痕跡も消え果てしまうこの身を、口惜しく思う]