― 屋上 ―[深く濃く澱む霧は、空間を切り取って別世界に誘う。強い風だけが、ここが屋上だと告げていた。風に吹かれた霧が渦を巻き、ここが現世の果てであるかのような錯覚をもたらす。冷たい風を受けながら、語られる言葉たち。>>24物分かりが良い我が仔の、多くを求めずあるがままを興じていた享楽家の、賢しらに器用に世の中を渡り歩いてきた狐の、彼自身が目を背けていた苦悩と願望の言葉。>>25]