[当てもなく彷徨った先。
王府軍の基地で>>4:137軍師を務める男の姿を見とめれば、王国騎士団敗北の報を耳にするところで。]
…ユレ殿。
[学生と教師であった時には‘フィオンです。’と頑なに主張していたものだが、
彼が王府に呼ばれ、騎士団にも号令を出せる立場となって以降は苦笑してそれを受け入れていた。
女の顔に浮かぶのは、その時とはまた違った色合いの苦み。
――実際、隊長の任に着いてからは貴人や役人と直接言葉を交わす機会も多くなり、本名で呼ばれる事も増えた。
いちいち反応するのは大人げないとメレディスに諫められて以降は受け流してきた。
彼と名前に触れてそんなやり取りをしていたのがもうずっと遠い時の出来事のように感じるのは、己が死んだからだろうか。
今はとても懐かしい。]