────逃げなくちゃ。この狂った人から。パンなんていらない。でも、逃げるには手足が自由に使えなければ……
恐怖心はまだ拭えない。むしろ高まっている程だ。
それでも、ずっとこんなところにいるわけにはいかない。
いつかパパとママに会うために────]
………手と足のロープを取ってほしい。
パン、食べられないから。
[声が震えないようにトーンを抑えて呟いた。
男は"あ、そうだね。ごめんごめん。"といって手足の拘束を解き始める。
────これで逃げられる。後はこの部屋を出るタイミングだけど……この人がこの部屋にいる間だけ、部屋の鍵は開いている。という事は……!
力ではかなわなくても、不意打ちならばいけるかもしれない。
チラリと部屋の隅にあるバイオリンケースに目をやった。]