[ざっと部屋を見渡す。何か、逃げられるようなところはないか、と。
しかしその部屋には窓はおろか、家具すらろくになかったのである。
部屋の大きさも、6畳ほどだ。
────ソファと小さな机と……バイオリン?
部屋の端に黒いケースを見つけた。
形からバイオリンケースだと推測できる。
つまりここは、あの男がバイオリンを練習する為の部屋なのだろうか。
数分後、男は袋を持って戻ってきた。
中には菓子パンが入っている。]
「はい、どうぞ。
アイリス、これから君は僕と暮らすんだよ。
とても嬉しいことだね。
あはは、遠慮しないでいいよ?なんでも言って?」
[目の前に差し出された袋をじっと睨みつけ、私はなにも答えなかった。]