[そうして男は私の頭を撫でる。
その時感じた悪寒は尋常ではなかった。
気持ちが悪い程の優しい声。
光のない目は何かに取り憑かれているようで、全く感情を読み取れないのである。
何より私は、この人に名乗った記憶などない。
男に体を起こされて、自分がソファに寝かせられていたことに気づく。
手足はロープで縛られ、自由がきかなかった。
どういうわけか、ロープと手首、足首の間には柔らかい布が巻かれていたのだが。
理解が追いつかないまま、男を睨みつける。]
「あ、お腹すいたよね?
何か持ってくるよ。待ってて。」
[男は特に気にする様子もなく、ご飯を取ってくる、と部屋を出た。
カシャン、と鍵をかける音が聞こえる。
────どうしよう。とにかく、ここから逃げなくちゃ。あれからどれくらい経ったかな?警察には伝わってる?
]