――そう言えば、幽霊ってことは…
[誰も見ていないのを見計らって、繭の蓋に手を置く。そのまま意識的に手に力を込めると、]
うわっ!?…と
[手は繭の蓋をすり抜けた。自身の亡骸の肩口も貫通して、カプセル内部のシートに手が届いていた。手がすり抜けた勢いで思わず体勢を崩し、ハッと顔を上げると、
自分の顔がすぐそこにあった。]
………!!
[思わず跳ね起き、繭から数歩離れる。
遠目から見ると安らかな表情だと思っていたが、間近で見る自分の顔は、血の抜けた薄気味悪い土気色をしていた。
顔の筋肉が全て脱力しており、だらしなく開きそうになった唇の奥に、口から血が漏れるのを防ぐための綿が詰め込まれているのが見えた。
よく見ると右目もうっすら開いていて、僅かに黒目が覗くが、その瞳は最早何も映さない。]
――気持ち悪い…
[率直に口を突いて出た感想だった。
しかし、これまで数多の人間を喰らい殺して来た人狼が口にする言葉としては、あまりにも滑稽な響きだった。
思えば沢山殺しすぎて、一人ひとりの屍体をじっくり見た事等無かった。
しかも初めてまじまじと観察した屍体が、よりにもよって自分の亡骸だったなんて。
気付けば壁にへたり込んで、肩で息をしていた。
――恐い。
既に命散らした今更になって、ようやく『死』への恐怖を理解したのだった。*]