―回想・昨夜―
[レトはそのまま眠りに落ちてしまったが、妙に目は冴えていた。
夜に動くルージュに対抗するためだろうか。
それとも、昔から徹夜ばかりしていたせいだろうか。
処理施設内はカシムとレトの仄かな寝息と、そこにいる無表情な男が身じろぎするときに立てる微かな音以外はしない。
隣で焼却炉内に炎は燃え盛っているのだろうけれど、不可思議な焔なのか、この耳ですらその音を捕らえられない。
地上に出ることは叶わないが、ルージュの足跡を辿ろうか。
そう思って地上の音に注意を向け、はっと意識を隣のレトに、隅にいるカシムに、近くの無表情な男に逸らす。
鼓動が早いリズムを刻む。勢いよく流れる血流が耳に煩い。
……様々な選択肢がある事を、彼が知ることを望んだだろう……。
胸の奥に生じた感情に名を付けることをよしとせず、それを直視せぬままに固く封印した。*]
―回想終了・昨夜―