[アデルはもう一人のアデルに手を伸ばしたが、その手は届く事なくカレー缶を抱えた自分と、もう一人のアデルは闇に吸い込まれてしまった。
「ボクらは、、、死んだ、のか。」
彼がそう呟いたのを聞いて、妙に納得をしてしまった]
そうか、なるほど。
夢ではなくて、死んだから身体が物体をすり抜けるようになってしまったのか。
[片手を掲げ、天に透かしてみる。
先ほどまでは気が動転していたから気がつかなかったが、意識して見てみると、その手はうっすらと透けていた。
――自分は、死んだ。
死因についてはいまいち把握していなかったが、とりあえず死んでしまったらしい。
しかし、そう自覚したところでさして悲しくも何ともなかった。
ただ、折角自分の部屋が貰えたのになぁとか、自分なりに一生懸命色々勉強したのに、結局一度も仕事する事なかったなぁとか。そこが残念だったくらいで。
当たり前だ。自分はポットから出されてまだ実質3日しか立っていない。
この世に執着するような思い出もなかったし、別れを惜しむような相手も存在しないのだから]