[それからしばらくして、エルナは宿屋に戻った。
音も立てずに扉を通り抜けられることに気付き、
本当に霊体になってしまったのか、と切なげに眉を寄せた。
部屋に戻れば書置きはなくなっていた]
……っ。
[小さく唇を噛む。
仮に残されていたとしても、あの筆跡では誰が書いたか明確には分からないし、そもそも。
オットーがいつあれを書いて部屋の前に置いたのか、
白熱してしまっていたせいかさっぱりわからなかった。
誰か、抜け出したことに気付いた人はいるのか―――
皆をたたき起こして訊いてみたい衝動に駆られたが今はそれもかなわない。
夜明けがことさらに遠くに感じられた。
そして、ほんの少し意識を飛ばした合間に、夜はもう、明けていた]