― 森の奥 ―
[どんなに走っても息が切れることはなかった。
たどり着いたその先に異形の死体を見て、思わず口に手を当てる。が、沁みついた習慣で]
触らないでスノウ!
[素早く周囲に目を走らせ、かがみこんで死体を観察する。
狼の腕には防御創は見当たらず、地面をうっすらと覆い始めた雪には、片道分の足跡しかない。
傷の形状やナイフの握り方も、それが自死であることを表していた]
…うん、もう大丈夫だよスノウ。自殺だ。あいつじゃない。
これが「におい」の正体なんだね?
[うっすらと開かれた瞼を閉じようとした指が空を切る。
もう驚いたり泣いたりする気力もなかった。
ただ、そういうものなのだと受け入れた]
なにしてるんですか、神父様。
自殺なんてして主の教えに背いたくせに、嬉しそうですね?