――第2エリア・通路――
[空っぽだった。
何も残っていなかった。
いや、それは正確でないのだろう。
やるせない思いや、自己嫌悪や、喪失感や、
そんな負の想いは、心の中にぐるぐると渦巻いたままに。
それでも、この手には、何も残っていなかった。
乗っていたものに気づいても遅く、ただ生きていた頃と同じ、何も乗っていないと認識できる手。
行く場所もない。帰る場所もない。
それはそう、生きていた頃と同じだった。
見ないふりをしていたもの―――“大切”だったもの。
それを見ないふりをしてきたのは、ある意味正しかったのかもしれない。
だって今、ひどい喪失感に襲われているから。
だから“大切”なもの、持たないようにしていたのに、って自嘲気味に。
だけど…それは、らしくなかったのだろうな、と、思った。
あの日―――“親”に捨てられた日、全てを失くしたような心地になって。
それから大切なもの持たないようにしていたけれど、それの裏側では
どこかで“愛”を、求めていたのだと思う。
捨てようとして、捨てきれなかった願い。
結局それは、自身の甘い部分として、残り続けていたのだろう。
全部、間違えてしまっていたのだろうか。
だから、こんな末路を辿ってしまったのだろうか。
それならば、しょうがないことだ。
あの日死ぬはずだったのが、アキレアと、そしてあの人に生かされただけの、
惰性だけの日々だったのだ。]