― 10年以上前・新緑の村 ―[新緑のマントの下からころりとしたひとつの卵を取る。母親が残した忘れ形見。中で息づく静なるいのちは孵る事なく男の傍にある。]母さんが死んでしまったから、お前は出てこれないのか?[テーブルの上にひとつの命を置き、優しく指先で触れる。母親の代わりにはなれないが、見守る目にはなれる筈。撫でれば温かい感触がそこにあった。]