[そのまま、メイン・サロンを出て、宙に浮かびながら、どこへいくともなく一緒に移動する。
宇宙開発黎明期の、宇宙船の中のようだ、と、状況には不釣り合いかもしれない他愛もない話をしながら思う。
こんな風に、他の人たちも旅をしたかったはずだ。
人狼なんかに、煩わされることもなくーー。
話を続けながら移動するうちに、アイリの表情も、最初の不安げな様子から、幾分かほぐれて来ただろうか。
「"人狼"の事……知ってますか……?」と、アイリが聞いて来た。
一応、こちらも生物学者であり、入船の時に前の人がやけに時間がかかっていたー弓矢か何かを持ち込もうとしたのだったかー時に読んだ、"うぃき・うぃき"の知識もある。]
確か、脳に寄生して、人間の精神を凶暴化させ、身体能力も向上させる…って話だったかしら。
治療法はまだ確立されてなくて、寄生されたが最後、人狼という人間を襲うことが至上目標となる存在に、なってしまう…。
[そこで、口を閉じる。知識はあったほうが良いが、無用に恐怖を煽ることもない。今の私たちが何をしたところで無駄なのかもしれないのだから。]