[ 人気の無い、半分崩れかけた雑居ビルの壁を蹴り、窓枠を足がかりにして、黒虎は上へと向かう。
夜空に懸かる月の光は冴え冴えと青白くスラム街を照らし、濃い闇の影を路上に落としている。
黒い虎と、それを追う黒曜の狼もまた、闇に溶け、闇を連れて、月光の下に舞い躍るような影絵を織り成す ]
『獣神』の目的という奴を知っているか?
[ やがて、ビルの屋上に到達すると、黒虎は、錆びた貯水槽の上に飛び上がって、若狼を見下ろし、ふいに、そんな問いを投げかけた。
その身を包み揺らめく焔は、まだ戦意が喪われてはいないことを示しているが、闇に輝く金の瞳は、どこか、戦いへの熱情だけではない不思議な静謐を沈めている* ]